パンニングを使ったミキシングはもう古い

エレクトロニックミュージックではパンニングに触らない

基本的にエレクトロニック音楽においてはパンニングをいじるということはあまりしません。いろいろなエフェクターを使うことで音のバランスが変わりやすく,パンニングを使って音の定位を変えることはあまりいい方法ではないからです。それではエレクトロニックプロダクションにおいてはどのように音の広がりを作っていけばいいのでしょうか。

音響空間の歴史,スペーシャルオーディオとは

もし同じ周波数の帯域の楽器が複数あった場合,ビートルズだったらパンニングを思いっきり左,右とふって音を分離させていたでしょう。それが多重録音の進化に伴い,次第に奥行きというものを考えるようになっていきました。その後,チャンネルは5.1, 7.1と増えていきポストプロダクションではサラウンドでミックスするのが当たり前になりました。さらに時代はVR(ヴァーチャルリアリティー)におけるスペーシャルオーディオというように進化していきました。スペーシャルオーディオ(Spatial Audio)とはVRにおけるイマーシブエクスペリエンス(Immersive Experience: 投入型の体験)をするために重要な要素です。サラウンドと違って,スペーシャルオーディオは自分が見ている方向に対応して音の位置が変わります。つまり現実の世界により近い音の響き方を再現できるようになっているのです。

スペーシャルオーディオの仕組みとハース効果

人間の耳は二つしかありませんが,人間は前,後ろ,上,下と言ったように音がくる位置を大体特定することができます。これは耳がフィルターの役割をしており,右耳に入ってくる音と,左耳に入ってくる音の時間の微妙な差を聞き分けて方向を脳が判断しているのです。基本的にスペーシャルオーディオはこのような時間のズレを利用して,音の方角を疑似的に作り上げているのです。これはハース効果(Haas Effect)と呼ばれています。

このように素晴らしい技術のスペーシャルオーディオですが,難点が一つあります。それは,一人一人目に映って見える色が違うように,音の聞こえ方も人によって違うことです。人はそれぞれ微妙に違った耳の形をしており,敏感さも異なります。つまり,スペーシャルオーディオを用いてミキシングする際はより主観的な音の聞こえ方に頼っているということであり,聴く人によって大分聞こえ方が変わってくるでしょう。

スペーシャルオーディオを作ってみる

スペーシャルオーディオは基本的に右耳と左耳で感じ取る時間差なので,ディレイによって再現できます。

fake pan

上のようにDelay Timeを微妙にずらすと,音の定位が違って聞こえるはずです。パンニングと違って,左右の音量のバランスが変わることはありません。

コーラスエフェクトを作る

実はこれにLFOを追加すると,コーラスと同じ効果を作ることができます。コーラスはDelayとLFOによって作られたエフェクトなのです。下図はコーラスエフェクトをDelayとMax for LiveのLFOによって再現したものです。

Chorus

このように空間を広めるにはパンニングだけでなく,ディレイやコーラスといったエフェクトを用いることによっても変えることができるのです。

スペーシャルエフェクトプラグイン

また, スペーシャルオーディオをミキシングに利用するためのプラグインもたくさんあります。Dolby Atmosをはじめとし,The Sound of the mountain, FacebookOculusもAAXやVSTプラグインを配布しています。

spatializer

Facebook Audio 360及びOculus Audio SDK Pluginは無料で入手できます。Max/Max for liveユーザーの方には,Envelop for Liveというものもあります。ぜひプロダクションに活用してみてはいかがでしょうか。