ミキシングをする際大事なことは、自分の耳を信じ、視覚に頼らないことです。ただ、それでも視覚情報に頼った方がいい場合もあります。ミキシングをしている段階では市販の音源よりも音は小さく、モニターの音量を上げる必要がありますが、果たして自分のミックスが適切な音量なのかということは聴覚からの情報だけでは分かりません。目標とする音源と比べて、それと同じレベルに持っていくのは得策ではありません。なぜなら、その目標とする音源はすでにマスタリングで音圧を引き上げたものであり、ミキシングの段階でその音圧レベルに達することは不可能だからです。
一般的に音響学において、音の振幅は空気圧の変化を表します。スピーカーのコーンが前後に押し出されたり引かれたりすることによって、疎密波が生まれ、それが人の耳に届いた時に音として認識されます。疎か密になるかは電極の+と–の両極性によって表します。プロフェッショナルスタジオのシステム、例えばアナログコンソールなどにおいては-1.23 から +1.23ボルトであり、DAWなどのコンシューマー向けシステムにおいては-1から+1ボルトの範囲です。僕たち音楽を作る人にとって興味があるのは、この-1から+1の範囲を超えないことです。ただ、信号がプラスかマイナスのどちらで超えているかということはあまり重要ではありません。ですから信号のレベルは-1であれ+1であれ1という絶対値で表します。ただこの電圧のレベルを数字で追うのは極めて困難です。実際に数値で表そうとすると、0.24153512356464464646334Vなどとなってしまいます。これでは二つのトラックの音量を比べる時など大変です。ここで便宜的な指標としてデシベルが出てきます。これによって、どのシステムにおいても同じ価値で示すことができるため便利です。プロフェッショナルオーディオ機器において、1.23V=0dBr(dB reference)、オーディオシーケンサーにおいて1V=0dBrとなります。コンピュータなどのデジタルシステムにおいては0dBrが最大値でそれ以上超えることができないため、ほとんどの場合はネガティブとなります。デジタルシステムにおいては0dBrを超えると必ずクリッピングしますが、アナログシステムにおいては音割れしたり、クリッピングする可能性はありますが、0dBrを超えることができます。0dBrを超えた範囲をヘッドルームと呼びます。実際にはDAWでも0dBrを超えることはできますが、様々な理由から0dBrを絶対的なリミットとしておくのが良いでしょう。(特にCubaseなどの32ビット浮遊小数点で処理されるようなシステムはかなりのヘッドルームがある)
マスタリング前の適正な音量は一般的にPeakレベルで、-4から-6 dbfs 程度とされています。ピークが0dbfsに張り付いているようなミックスは”Hotすぎる”ので、マスターフェーダーを下げるのではなく各トラックのボリュームを下げる必要があります。トラディショナルな方法としては、先程述べたpeakレベルに収まるようにミックスし、音が小さすぎるようでしたらモニター音量を上げるようにします。この際後で戻れるように、決めたモニター音量の場所に印をしておくと良いでしょう。最近では、初めからizotope ozoneのようなリミッターをマスタートラックに挿入して、マスタリング後の音圧を想定しながら曲制作をするプロデューサーもいますが、慣れないうちは何もインサートしない方が良いでしょう。マスタートラックにコンプレッサーをインサートすると、何もない場合よりも耳障りがよくなります。どうしてもソフトウェア音源のザラザラした不自然な感じが気になる場合はSSL master compのようなコンプレッサーを挿入するといいでしょう。ただ、コンプレッサーはほんのりかかる程度で、スレッショルドレベルは針が4db以上触れないよう、レシオは2:1などの自然なレベルになるようにします。リミッターはクリッピング防止用として挿入するのでしたら構いません。僕はアウトプットレベルを-0.3dbあたりに設定したリミッターを念のためマスタートラックにインサートしてます。またRMSメーターにおいて音量が-18dBFSを下回る場合は音が小さすぎるのでフェーダーを上げるようにしましょう。
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Tomokazu Hiroki
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